講師インタビュー
INTERVIEW
講師インタビュー 第三回 | 上川 一哉

歌唱・演技講師
上川 一哉
島根県出身
2005年劇団四季に入所。
「人間になりたがった猫」で初舞台を踏み、2008年には同作品で主役を演じる。
以後、多くの作品でメインキャストを演じる。東日本大震災後に被災地で上演された東北特別招待公演「ユタと不思議な仲間たち」では全45公演で主役のユタを演じた。「リトルマーメイド」では日本初演キャストとしてエリック王子を演じている。
2018年には自身初となるストレートプレイ作品「恋に落ちたシェイクスピア」にて主役のウィリアム・シェイクスピアを演じた。
2021年12月劇団四季を退団。
◯主な出演作
・人間になりたがった猫 / ライオネル
・ユタと不思議な仲間たち / ユタ
・春のめざめ / メルヒオール
・リトルマーメイド / エリック
・キャッツ / マンゴジェリー、ラムタムタガー
・恋に落ちたシェイクスピア / ウィリアム・シェイクスピア
・ウェストサイド物語 / リフ
・ウィキッド / フィエロ
・コーラスライン / マイク、ポール
・Moulin Rouge! the musical / ロートレック
ゼロからのスタート、トライアンドエラーの舞台人生

講師インタビュー第三回は、歌唱・演技講師・上川一哉に、ミュージカルとの出会いから、劇団四季時代のエピソード、そして指 導への向き合い方について、インタビューしました。
ゼロから積み上げた基礎、学ぶことを楽しむ姿勢、人としての芯。舞台人生20周年を迎えた今、上川氏はどのようなことを考えながら舞台に立ち、指導に向き合っているのか。その想いに迫ります。
誰よりも初舞台の気持ちで、疑問と向き合い続ける
ー まず、ミュージカルとの出会いを教えてください。
上川一哉 もともとは、市民ミュージカルの踊り手として舞台に立っていました。
よさこいやストリートダンスも“遊び”でやっていたくらいで、俳優になるなんて頭の片隅にもなかったんです。
そんな中、四季のオーディションの存在を知り、「どうせ受からないだろうけど、人生経験として受けてみよう」
そんなノリで、高校3年の時に受けてみることにしたんです。
島根の田舎で育った僕にとっては、“東京に遊びに行ける!”そんな気持ちの方が大きかった(笑)。
結果は、まさかの合格。
その後、2005年10月に『人間になりたがった猫』のアンサンブルでデビューしました。
実はその前に『ユタと不思議な仲間たち』のユタ役にキャスティングされていたんですが…一言目を発した瞬間に降ろされてしまって(笑)。それでアンサンブルからのスタートになりました。
ー 劇団四季に入団後、どんな訓練を積んできたのでしょうか。
上川 全部がゼロだったんです。だから逆に“マイナスになることがなかった”。学ぶことがとにかく楽しかったです。
ただ、研究生の頃は踊るのが楽しくて、歌や台詞から逃げてばかりでした。
歌のレッスンをサボったり、研究室に入っても練習できなかったり...。
でも『ユタと不思議な仲間たち』のオーディションでズタボロになった時、「自分はまだスタートラインに立つ準備すらできていない」と気づいたんです。
やらなきゃいけないことが山ほどあると気づいた瞬間から、研究室にこもって自主練習をする時間が楽しくなりました。できる同期を捕まえては教えてもらい、「あーじゃない、こうじゃない」と試行錯誤の連続でした。休日も研究室にこもり続けた結果、『人間になりたがった猫』ライオネル役に合格。
稽古に向けて、公園で一人で練習するなど毎日力の限りを尽くして取り組みました。
ある日稽古場で「じゃあ全幕通してみろ」と言われ、とにかく必死にやったら、「これくらいできて当たり前だ」とバッサリ。“ここまでやって、ようやくスタートラインなんだ”と痛感しました。
ー 劇団四季と商業ミュージカル、両方を経験してわかった“絶対必要なもの”は何ですか?
上川 絶対に必要なのは 基礎力 です。
劇団で徹底的に叩き込まれた腹式の発声、様式美、身体の使い方は、自分の財産だと感じます。
また、僕の武器・個性は、すべて“基礎から枝分かれしていったもの”なんです。
基礎力を無視しては、個性は生み出せない。
そして、人とのつながり。作品作りにはたくさんの人が関わっています。
周りとのつながりや関係性を大切にして、自身の人間力を磨き続けること。
初心を忘れたら終わりです。僕は今でも、「誰よりも初舞台の気持ちでいたい」と思ってます。
驕りは一ミリでも見えたらダメ。僕自身、まだまだだと常に思っています。
ー これまでの舞台人生20年振り返って「やっておいて良かった」と思うことはありますか?
上川 疑問を放置しなかったこと。これに尽きます。
「なんでこうなるんだろう?」「なんでこのセリフだけ言いにくいんだろう?」
そういった疑問を「まあいいや」で終わらせなかった。
稽古場で消化できなかったことは、帰り道を歩きながらずっと考えていました。
その繰り返しが、今の自分を作ってくれたと思っています。
疑問を解決し続けたことで、誰かを教える時にもその経験が生きているし、いろんな悩みに共感できます。
時間をかけて向き合い続けてきた様々な疑問が、20年経った今、ようやく形になってきたと感じます。


自分らしさを見つけ、折れない芯を持った俳優へ
ー Seedの指導で大事にしていることは?
上川 一方的にならないことを大事にしています。生徒と一緒にトライアンドエラーをする。
そして、指導の場でも飾らずに、自分自身が悩んだことや失敗談を共有するようにしています。
また、結果だけを見るのではなく、“過程をどう育てるか” を大事にしています。
イメージも感性も人それぞれだから、その人が持っているものを最大限引き出すために深掘りします。
トライアンドエラーは怖い。でも、それができた瞬間、人はものすごく強くなるんですよ。
僕自身がこれまでの舞台人生の中で、たくさんの先輩や仲間から学んだことを、自分なりのやり方で体現しています。
Seedでは、自分が劇団に入る前や在団中にやっておきたかったことをやっているつもりです。
ー Seedにはどんな生徒が在籍していますか?
上川 年齢も性別も得意分野も、とにかくいろんなタイプの生徒がいます。
ただ、“ここに来たら受かる”ではなく、“ここで学びたい”という思いで来ている子が多いですね。
成長スピードはそれぞれだけど、前向いて上り坂登っている感覚があります。
Seedのような、こんなに愛のあるスタジオ、他にはなかなかないと思います。
講師陣は生徒と共に悩み、もがき、本気で向き合っています。そして、それを楽しんでいます。
だから僕自身も楽しいと思うし、生徒たちが夢を形にしていくのを見たいです。
Seedは“人間を作る場所”でもあります。
時には泣きながら相談して、人間性と技術を一緒に育て、自分らしさを見つけられる場所だと思います。
しかし、ここに所属していることに甘えてたら結果は出ません。
講師陣は相談には乗ってくれるが、全ての判断・決断は生徒たち自身に任せているので、自分自身で舵を切っていかないといけないシビアな場所でもある。
ー 結果を出すために必要なことは何ですか?
上川 まず、技術力が高いことは絶対に必要です。
でもそれ以上に大事なのは、“折れない芯を持っているか” です。
人間だから、悔しさも挫折もあります。
そんな中で、いろんなものが風で吹き飛ばされたとしても、これだけは貫き通すというものが明確にある人は強いです。
僕自身は「絶対に負けない」という気持ちだけでやってきました。
演出家に何を言われても、「絶対に次は期待以上のものを持っていく」と思いますし、
オーディションに落ちても、「次は見返してやる」とエネルギーに変えます。
ただの根性ですが、それを心の奥底に持ち続けています。
そしてもうひとつ、記憶に残ろうとすることです。
アンサンブルでもメインでも、「この役といえばこの人だよね」思われる人っているじゃないですか。
こだわりがきちんとあって、記憶に残ろうとするための工夫、努力をができることは大切です。
舞台は、とてもしんどいし、孤独です。
悔しさも苦しさも、結局は自分で向き合うしかないんです。
いかに立ち向かって乗り越えていくか。
その孤独の中で頑張り続けられる人が、最後に勝つのだと思います。


